歯は、食べ物を噛むために重要な働きをしており、力をかけてものを細かくすりつぶしたり、切り裂いたりするというのが歯の役割です。同時に、歯は食べ物を粉砕する時の反作用で、当然負担を受けています。
普段の生活の中で、お食事のとき以外で噛みしめる時を思い浮かべてみてください。重いものを持った時・スポーツをやっている時、怒っている時などが思い浮かんだ人も多いのではないでしょうか。
しかし、実は寝ている時にもとても強い力で食いしばっていることをご存知でしょうか?寝ている時にギリギリ歯ぎしりをする人もいれば、音はしないけど食いしばったまま力が入り続けている人もいます。歯ぎしりは自覚するよりも、周りから指摘されることで気づく方が多いので、ギリギリと歯をすり合わせる様にするタイプの人は自分でもしているとわかっていることが多いですがグッとかみしめ続けるタイプの方は周りも自分も気づいてないことがあります。
「ギリギリ音がする」とい言われたことがない方でも、朝起きた時に顎や側頭部が痛かったりだるい感じのする人は要注意です。
咬む力は人によって異なりますが、力がかかっている人ほど、ある特徴が骨に現れます。咬む力のかかっている部分は骨が歪み、その部分の骨が力こぶの様にボコボコと大きく膨れます。下の顎だと、歯茎の舌側に、上顎だとちょうど真ん中あたりが膨れてきます。
こういった特徴がお口のなかに現れている人は、食いしばりがある可能性が高いです。
実は、寝ている時の食いしばりは、食事をしている時など起きている時の力と比べると歯や顎に対する負担が大きいことが明らかとなっています。(※1)
寝ている時の歯ぎしりの力が皆さんの体の共用できる範囲を超えてしまうと、それによって歯や周りの組織、関節にまで悪影響が出てしまいます。寝ている時の歯ぎしりの出現には2パターンあると言われています。
歯ぎしりの原因はの一つはストレスであるとも言われており、前者(1)はライフスタイルの中でストレスがかかるイベントが発生することで歯ぎしりをしてしまう人です。
後者(2)は、慢性的にストレスレベルが高いとされる特定の性格の方の割合が多いとされています。
お仕事や、家事など様々なことでストレスを抱えやすい現代社会の環境が歯ぎしりの原因となっているため、寝ている時の歯ぎしりを止めることは難しいと考えられています。
ですから、お仕事や勉強などでストレスを感じやすい人はこの歯ぎしりとうまく付き合っていく必要があるかもしれません。
上顎
下顎
※1)All ten subjects tested were found to brux and two used intensities of effort while asleep that exceeded their maximal conscious clenches.(10人の被験者は全員、歯ぎしりしていることがわかり、2人は就寝時に最大咬合力を記録した。
食いしばりなど咬む力の影響は様々なところに出ます。過度な咬合力は、顎顔面領域に大きく影響を与えます。もちろん歯に対して影響が大きく出ます。
まず、一番わかりやすいのは、咬耗と呼ばれる歯のすり減りです。歯がすり減ってくると、むし歯になりやすい象牙質と呼ばれる部分が露出してきて、そこからむし歯になってしまうことや、しみてくることがあります。前歯がすり減ってちびてくると見た目が悪くなります。歯がすり減ることで噛み合わせの高さも低くなり、今まで負担を受けていなかった部分に過度な力が加わる様になってしまったり、すり減った角の部分が、舌や粘膜を傷つけてしまうこともあります。
歯と歯の当たっているとことの隙間が広くなってくるとものがつまり、食事の時に痛みを感じやすくなります。
この歯のすり減りは、元の形に戻すことが難しいというところが、一番の問題です。例えば、前歯がすり減ってきてカッコ悪いので元に戻したいとすると、単純にそのすり減ったところに白い樹脂を盛り足すと、すぐに取れてしまいます。取れにくくするためには、被せ物を作らなければなりませんが、そのためには歯をぐるっと一周削らなくてはなりません。さらに、前歯だけを直すと、他の歯に比べて前歯が引っかかってしいやすくなり、入れた被せが欠ける、、取れる、歯が折れる、歯が前に飛び出るなどの問題がすぐに起こります。
このため、すり減った前歯を元に戻すには、奥歯も全て被せにして、元の歯の形、噛み合わせの高さを再現しなくては長く持ち、ちゃんと噛める状態にすることはできません。
また、咬む力がかかると、歯根破折や歯冠破折といった、歯の破折が起こることがあります。これは、物に力がかかると折れたり欠けたりするのと同じで、歯でも同様のことが起こります。特に、神経を取ってしまっている歯や、被せや詰め物などで治療をしている歯で起こりやすいです。人工物が歯にくっついているということは、もともとあった健康な歯質が失われ、薄い歯質が残っているということなので、そういった部分は薄ければ薄いほど折れやすいです。
神経を取っている歯に関しては、歯がもろくなっており、根っこごと折れてしまいやすいです。歯は根っこが骨の中に埋まっており、それによって支えられているため、この支えの部分が折れてしまうと、治療をすることができません。
咬耗に対するクラウン
歯根破折
過度な咬む力は歯だけだはなく、歯の周りの組織にも悪影響を与えます。
歯の周囲の組織には、歯肉や骨などがあり、歯周組織と呼ばれます。この歯周組織は過度な咬合力を受けることで、歯肉が下がったり、歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の間の隙間が深くなったり、歯を支える骨が吸収するのが促進されます。いわゆる歯周病を悪化させてしまいます。
これによって歯の根の部分である歯根が露出しやすくなります。
歯根は、歯の頭である歯冠と比べると表面を守っているエナメル質という硬い無機質の組織がないため、欠けたり、むし歯になりやすいです。
さらに、歯の中の神経と近く、感覚を感じることができるため、冷たいものがしみる知覚過敏や、歯磨きの時に擦れて痛く感じる様になります。知覚過敏は一度起きるとなかなか治らず、ひどい時はお食事ができなくなることもあります。歯肉が下がった部分は、力がかかりにくくしても自然には元に戻らないことが多くそのままになってしまいます。
また、力のかかる部位は、歯の歯肉の際に近い歯頸部と呼ばれる部分がえぐれた様になって欠けてくることがあります。
これはくさび状欠損と呼ばれます。できる場所や形から、歯磨きの力が強いことや、歯磨き粉にふくまれる歯磨剤が原因と考える人もいるのですが、これは歯磨きの習慣がない人や動物でも見られ、実際は、歯頸部に生じる引張応力が原因となっているということがわかっています。これは、歯に歯の生えている方向に対して,歯ぎしりや歯ですり潰す様な動きによる横からの力がかかると、歯頸部が支点となり力が集中するこいう原理で引き起こされます(※2)。放置していてどんどんえぐれてくると、歯髄が露出してしまったり、歯が折れたり、そこからむし歯ができやすかったり、しみる症状が出たりすることがあります。このくさび状欠損に対しては、白い樹脂で詰めることで対応します。しかし、力の負担が大きくかかるところになるため、つめた樹脂が取れやすく、何度も詰め直しになることもあります。
また、部分的な歯の欠損が増え、歯の本数が少なくなると、個々の歯の負担は大きくなります。 以前は歯の本数が減ると咬合力は弱くなると思われていましたが、噛める歯の本数が減っても、歯ぎしりは止まらず、食べる効率が下がるため、残された歯は以前よりも酷使される様になります。 その結果、過度な咬耗や、歯の動揺が起こったり、奥歯がなくなった場合は前歯が前方に傾斜し、口元が出てくることは少なくありません。 特に、歯周病の進んでいる方は、噛む力ではがぐらつき抜けてくることもあります。
ここまで進むと咬合崩壊といって、全ての歯がなくなる咬み合わせの崩壊がはじまります。咬み合わせが崩壊すると、歯はどんどん抜け落ち、総入れ歯やフルマウスインプラント(全顎的なインプラント治療)、All-on-4などの全顎欠損治療を検討する必要があります。
顎には関節があります。顎の関節を感じるには、耳の穴の少し前方を指で触りながら口を開けたり閉じたりしてみてください。硬いものが動くのを感じると思います。そこが、顎の関節です。顎の関節は顎関節(がくかんせつ)と言い、下顎の関節突起と呼ばれる部分の先端と、頭蓋骨の側頭骨にある下顎窩と呼ばれる窪みと、その前方にある関節結節で構成されています。そしてこれらの骨と骨が当たらないよう、間にクッションの働きをする関節円板という繊維性の軟骨が挟まれています。
この顎関節やその周囲の筋肉に異常が見られる時は、顎関節症(がくかんせつしょう)という病気の可能性があります。
顎関節症は、原因によってⅠ~Ⅳ型までの大きく4つに分類されます。Ⅲ型はさらにaとbの二つのタイプに分けられます。
障害部位 | 障害部位 | |
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Ⅰ型 | 咀嚼筋 | 筋痛、運動痛、運動障害 |
Ⅱ型 | 顎関節靭帯・関節包 | 顎関節痛・顎の運動障害 |
Ⅲa型 | 顎関節円板・復位性 | 顎がカクカクなる・開口障害 |
Ⅲb型 | 顎関節円板・非復位性 | 開口障害・顎の運動時偏位 |
Ⅳ型 | 顎関節の変形 | 関節雑音、顎運動障害・顎関節の圧痛や運動時の痛み |
また、これらの分類ごとに治療内容が異なってきます。
Ⅰ型は、顎を動かす筋肉に原因がある場合です。
筋肉を押すと痛みが出たり、動かすと痛かったり、痛くて顎を動かしにくいなどの症状が出ます。発生原因はあまり明らかとなっていませんが、筋肉の中にある侵害刺激を感じる部分や、脳の痛みを感じる部分、痛みに対する対処能力が関連すると言われています。
対応としては、まずは安静にすること。(トレーニングなどして食いしばったり、無理に噛まない)
筋肉のマッサージや、口が開きにくい場合は開口訓練行います。また食いしばりにより筋肉が緊張した状態なのであれば、マウスピースを使うこともあります。
Ⅱ型は、顎関節を包んでいる関節包や、滑膜が、外からのダメージ(打撲など)や、内側からのダメージ(無理な咀嚼、大あくび、歯ぎしりなど)によって損傷し炎症を起こしていることが原因となります。顎の関節が痛かったり、顎を動かしにくいなどの症状が出ます。
対応としては消炎鎮痛剤を服用して安静にする、マウスピースを使う、口が開きにくいのが改善しない場合は開口訓練を行います。
Ⅲ型は、顎関節にある関節円板が開口時や閉口時に骨について行かず、骨の前や後ろにずれてしまう位置異常や、形態異常によりクッションの役割をはたせないときに起こります。
さらに、関節円板が元の位置に戻る復位型のa型、関節円板が元に戻らなくなってしまった非復位型のb型に分けられます。顎関節症の中で最も多くの割合を占める症状です。
a型は、顎を動かすとカクカク音がなります。音がなる前までは関節円板が正常な位置からずれており、音がなるときに正常な位置に戻っています。顎が動かしづらく感じたり、痛みを感じることもあります。
b型は、この円板がずれたままで元に戻らないため、口の開く量が制限されたり、動かしにくくなります。通常はa型からb型に移行していくため、カクカク音がなっていたけど、音が鳴らなくて症状が消えたと感じる方もおられますが、これは治癒したわけでわなく、症状が進行したと言えます。
治療方法は痛みや、口が開かなくなることがない場合は基本的には経過観察を行います。そういった顎が動かないという症状がある場合は関節円板が正常な位置に戻るように、顎に力をかけて無理やり動かす方法や、マウスピースを用いて顎が安静状態になる位置に安定していられるようにするスプリント療法を行います。
マウスピースを用いて顎の安静な位置がわかり、そこで噛み合わせを作れるためには、矯正治療をしたり、被せを遣やりかえる補綴治療をする必要があります。
顎関節症は様々な病態がありますが、症状がひどくない場合は、基本的には経過観察を行いながら安静にするということが多いです。何か治療をしてもあまり変化がないものや、一度改善してもまた再発することも多く、原因として噛み合わせに問題がある場合は、結局は矯正治療を行い、被せや詰め物などを全てやりかえなければならず、これは治療期間的にも費用的にも体力的にも患者さんの負担が大きくなるため、そこまでする必要があるかというのはしっかり見極めなければなりません。
顎関節症かな?と思ったら、まずは歯科を受診し、原因となる行動や習癖を抑制することで安静となる状態を作ることが大切です。それでも何度も繰り返すようなら、一度咬み合わせの改善、矯正治療もご検討頂く必要もあるかと思います。
歯科での咬筋ボトックス治療とは、ボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を成分としたお薬を咬筋に注射することで咬筋の突っ張りを和らげ、これまで咬筋の力によって受けていた顎や歯への負担を軽減する治療です。
咬筋は、食べ物を噛みちぎるときに使う筋肉ですが、人によっては無意識下で力が入ることがあります。その代表例が「歯ぎしり」や「食いしばり」です。
歯ぎしりや食いしばりがあると、それによって歯の摩耗・歯の欠け・歯根の破折・顎関節症などを引き起こす原因となります。
ボトックス治療は、この顎や歯にかかる力を和らげることを目的に行う治療です。
歯の摩耗
歯茎の痩せ
治療歯の脱離
歯の破折
肩こり・偏頭痛
顎関節症
咬合力には個人差があるものの、ある調査(※1)における人の最大の噛みしめは、649.4~1579.7Nだったそうです。1N(ニュートン)は1 kgの質量を持つ物体に1 m/s2の加速度を生じさせる力のことですが、簡単にいうと、1リットルのペットボトルを持ち上げるのに必要な力が約10Nとした場合、649.4~1579.7Nの咬合力は、約65から158個の1リットルのペットボトルを持ち上げるくらいの力と考えられます。
歯ぎしりや食いしばりは、主に就寝時に起こることが多いのですが、これだけの力が顎や歯にかかります。
ボトッククス(ボツリヌス注射)を咬筋に打つことで、この咬筋の力を弱くすることができます。もちろん、全く噛めなくなるというわけではなく、極端にいうと10の力を5にする、といったイメージです。
これは、歯ぎしりや食いしばりによる影響を弱める直接的な治療であり、歯は顎へのダメージを防ぐだけでなく、咬合力が原因で併発していた頭痛や肩こりなどの不定愁訴、顎・エラの張りが改善されることもあります。
※1)IP基準値の総咬合力は,表1に示すように被験者ごとにまちまちであり,最大力噛みしめで649.4~1579.7Nであった。
では、歯ぎしりや食いしばりの原因はというと、実はまだはっきりと解明されていませんが、主に考えられているのは以下の3つです。
また、近年ではTCH(Tooth Contacting Habit)といって、起きている間も上下の歯が接触させている癖がえ問題になることがわかってきています。TCHは過度の緊張やストレス・スマホやパソコンの操作姿勢・デスクワークでの固定された姿勢など、まさに現代病とも言えるものかもしれません。
咬合力を抑える咬筋ボトックス治療は、睡眠時の歯ぎしりや食いしばりだけでなく、このTCHに対しても症状やダメージを抑える治療となります。
ボトックス治療というと、美容外科などを思い浮かべる方もおられるのではないでしょうか?というのも、ボトックス治療は日本でも数年前から美容医療として、シワの改善やエラの縮小(小顔効果)などの治療に使用されてきました。また、近年では眼瞼痙攣(がんけんけいれん)・片側顔面痙攣(がんめんけいれん)・痙性斜頸(けいせいしゃけい)などに対する治療効果も認められており、医療用としても行われている注射です。
ただし、歯科での咬筋ボトックス治療は、美容目的で行うものではありません。そのため「小顔にしたい」「エラをとりたい」という主訴を解決する治療ではありませんのでご注意下さい。
ただ、歯ぎしりや食いしばりに対する治療のおまけとして、咬筋が緩むことでエラが小さくなったり、小顔効果を得られることもありますが、これを狙って行うものではありません。
また、ボトックスが有効に働く期間は半年程度ですので、半永久的に効果を得られる治療ではありません。ただ、中にはボトックス注射をきっかけに、歯ぎしりの週間がなくなった方もいらっしゃいます。
咬筋ボトックス治療(ボツリヌス注射)は健康保険の適用がない自由診療です。
どんな治療でもメリットがあればデメリットもあり、ベネフィットがあればリスクがあります。ボトックスも例外ではありませんが、今のところ大きな副作用やリスクは報告されていませんが、
などの副作用・後遺症の可能性があります。ただ、いずれも大きな問題になるようなものではなく、多少影響があっても時間の経過とともに元にっ戻っていくことがほとんどです。
ただし、ダウンタイムなどはありませんので、治療終了後の生活に影響がでることはありません。
※1)下顎の前から6番めの前側の根管で一番破折が起こりやすい
曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
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診療開始 | 9:30 | 9:30 | 9:30 | 9:30 | 9:30 | 9:30 |
診療終了 | 18:30 | 18:30 | 13:00 | 18:30 | 18:30 | 17:00 |
休診日:・日曜
※日曜・祝日診療は下記診療カレンダーをご覧下さい。
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | ||||||||||||||
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休診日
日曜・祝日診療
13時迄
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